出勤前憂鬱

明後日から出勤だというのに、夕方以降気持ちが晴れない。

多分、休み明けに彼に会うのが辛いからだ。

この数日間の間に、新しい彼女が出来ていたらどうしよう、彼女まではいかなくとも新しい女の子とうまくいっていたらどうしよう。

そんな想像で心がざわついて、モヤモヤする。

本を読んでも、映画を見ても、体を動かさない限り何にも集中できない。

本当に辛い。

別れてもう1ヶ月以上経つのに、なんでこんなに日々辛いのだろう。

 

出勤の度に顔を合わせ、必要とあれば会話をしなければならないという仕事上の付き合いが、私の心を少しずつえぐっていくのだ。

 

夏季休業前日、気合を入れてマスカラをたっぷり塗った日。数名に気合い入ってるね!的なことを言われた。多分、普段と比較して相当主張が強かったのかもしれない。中でもある上司は、今日は一段と素敵だねなんて言ってくれたからすごく嬉しくて嬉しくてなんだかハッピーだった。

だが、一つ出来事が発生する。

 

その日は、彼と真正面から顔を合わせることがなく、彼自身私の顔を見ていなかったんだと思う。

だけど、私に何か伝えようとして数メートル先にいる私の方を見た。その瞬間、彼の動きが数秒間止まった。顔の表情も、指先の動きも。

強風で斜めに二つにパックリ割れた前髪のままで。

はっきり言って遠目からでも明らかに風に打たれたその前髪はおかしかった。

だから、マスクの下はちょっともうニヤニヤが止まらなくて本人に指摘しようとも思ったのだが、あまり余計な会話をしたくなかったので我慢した。

 

そして、彼の変な前髪を視界に入れないように頑張りながら伝達事項を聞き、私の業務に取りかかる。

その後、業務がひと段落した私は、バックヤードで明日の営業準備をせっせと始めていた。

デスク付近に彼がいたため、近づきたくなかったっていうのが理由なんだけど。

 

そして、黙々と作業をしていると彼がしきりに背後を行ったり来たりする。目的地があるわけでもなく、私を通り過ぎるとすぐにまた戻ってきて今度は逆方向に行く。案の定すぐに私の隣に戻ってくる。

 

こういう時は決まって何か私に伝えようとしている時だ。

そうすると、横に陣取った彼は一言

まつ毛かち上がってますね。そう言い放った。

 

だから何だよ。そう思いつつも、会話を続けたくなかった私は、そうですねー!っと不自然な笑顔で返した。それを受けて彼は2秒くらい私の方を見続けた。

その後私は同じ場所で途中の作業を続けていたが、彼は少しするとまた去っていった。

 

自分から冷めたって言っておいて、なんであんなこと言ってくるんだ。

まつ毛がー。な会話に恋愛的な要素が詰まってるとは思えないけど、自分から最初に離れていったのになんで普通に話しかけようとするのか。訳がわからない。

 

私はこんなに辛いのに。

多分、辛いだなんて思っていないだろう。

自分から別れを告げることができなかったという不甲斐なさと、なんとなく職場に元カノがいて気まずいくらいの感覚なんだろう。

おそらく、辛いなんて感情は微塵もないだろう。

 

どうして私は別れた今も、こんなにちゃんと失恋を引きずっているのか。

過去の出来事を振り返ると....

いや振り返りたくない。

 

せめて顔を見なければこんなにずっと辛い思いはしないのに。

とにかく、傷口がまだ言えない。なんとも不快な気だるさとともに。